2020.04.17 講師紹介

2014年 第7回全日本最優秀ソムリエコンクールに挑戦して(3)

7.【帰省】

8月。

約3年ぶりになるだろうか。

お盆休みを利用して、実家がある山口県に帰省した。

なかなか顔を出さない息子の久しぶりの帰省に、両親と祖父は、とても喜んでくれた。

しかし、今回の帰省には、もう一つの目的があった。

10月に行われるソムリエコンクールの決勝会場が、福岡県のホテルニューオータニ博多だということで、あらかじめ現場を見ておきたいという気持ちがあったのだ。

いわゆるこれも「言い訳をしない準備」の一つである。

これまでにまとめたノートや資料をできる限り鞄に詰めての帰省。

少しでも空いている時間があれば、目を通せるようにした。

初日は、自宅の裏庭で、恒例の家族全員でのバーベキュー。この時も地元のワインを合わせて飲むようにしていた。

そして、その翌日は、両親と共に福岡へ。

目的地であるニューオータニ博多に到着し、地元の料理やお酒が楽しめるというレストランに入り、焼酎や日本酒と一緒に郷土料理を堪能した。

その後、市内にあるという歴史ある酒蔵も見学をさせていただき、いろいろなお話を伺うことで、博多という土地の文化に少しでも触れることができた。

 

 

8.【9月】

ワインスクールで担当させて頂いている、試験対策講座2クラスの受講生達、約40名が皆一次試験を突破したとの情報が入り、私自身、達成感と共に、次の二次試験に向けての大きなプレッシャーを背負うことになる。

二次試験のテイスティング、実技に向けての対策講義には、この一年間やってきた授業の中でも、その先に見える大きな山の頂を目指すかのように、残された力を全て注ぐ勢いで、毎週教壇へと向かった。

限られた時間の中で、受講されている方々に何を持って帰ってもらえるか。

テイスティング能力を高め、金色に輝くブドウのバッジを全員が手にするために、自分の持っている全てのことを伝えることができたか。

自問自答の日々は続いた。

コンクール本戦まで、一か月を切ったある日。

いつものようにレストランの現場に立ち、満席のゲストを迎え、ワインをサーヴする。

その日は、お昼頃から体調が思わしくなく、喉の調子が特に良くなかった。

時間が経つにつれ、ワインの説明が少しずつ困難になっていく。

声がかすれていき、次第に発声が思うようにいかなくなってきた。

そして、その日の営業の後半、ついに一切の声が出なくなっていた。

「声が出なくなったのは人生で初めて。こんなにもつらいとは。人間、疲労がピークを超えると声が出なくなるらしい。」

ネガティブな内容は、好ましくないと思いながらも、言葉で伝えることに飢えていたこの時の自分は、思わずツイッターでこんなことをつぶやいていた。

そして、さらに不運なことに、翌日は、ワインスクールにおいて、今年度のクラスに向けての二次試験前、最後の授業を控えていた。

ここまできて、まさか最後の授業に立てなくなるのか。。。ここまで共にがんばってきた仲間たちに最後のエールを送ることもできない。

そんなことになったら、講師として、これからずっと後悔の十字架を背負っていくことになるだろう。

それだけはどうしても避けなければならない。

翌日は、朝から病院に向かい、できる限りの治療とアドバイスをいただき、ワインスクールへと向かった。

声はかすれていた。

受講生にあらかじめ、お詫びを入れてはいたが、当然ながら講義自体のクオリティを下げることは許されない。

とにかく伝わるように声を振り絞り、いつも以上に強い気持ちを持って、授業に臨むようにした。

最後の十五分間は、おそらくほとんど声が出ていなかった。

聞き苦しかったかもしれない。

しかし、参加された方々からは、終了後、ありがたいお言葉をたくさんいただくことができた。

自分なりのベストは尽くした。

なんとか最後までやりきることができた。

全ての言い訳はなかった。

 

 

9.【最後のトレーニング】

残り二週間。

ワインスクールでの仕事もひと段落つき、いよいよコンクールに向けてのラストスパートが始まった。

L‘AS、CORKは、変わることなく、日々100名様を超える、多くのゲストを迎え続けている。

そんな忙しい中でも、シェフは惜しみない協力をしてくれた。

「世界のどこかの名物料理を実食し、それに合わせて、2アイテムのワインをブラインドでテイスティングし、相性をコメントする。」

「用意されたワインリストに目を通し、即座に間違いを指摘していく。」

「各国のコース料理のメニューを突然渡されて、それぞれに合わせたワインを、全て別の国のもので提案していく」という課題を想定したトレーニングの場を、実際に用意してくれて、本番に向けてのトレーニングを進めていく機会を充分に与えてくれた。

自宅に戻ると、約60種類の、スピリッツやリキュールが入った小瓶を、銘柄を見ないように蓋をあけて、香りだけ取って瞬時に銘柄を述べる。

というトレーニングを繰り返していた。

そして自作の問題集も、フランス語バージョン作り、それを繰り返し読みかえした。

それと同時に、過去の世界大会や、全日本コンクール。

自身が決勝の舞台に立ったルイーズのコンクールのビデオも何度も見直しながら、決勝の舞台へ向けてのイメージトレーニングを繰り返していた。

そしていよいよ「明日、福岡に向けて発つ」という最終日、シェフからのサプライズで、最後のブラインドテイスティング。

3アイテムをフランス語でフルコメントし、最後の準備を終えた。

 

 

(次作をお待ちください)

Author

田邉公一

Tanabe Koichi

  • 日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
  • 日本ソムリエ協会認定 SAKE DIPLOMA
  • 日本ソムリエ協会認定 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL
  • WSET Level3 Advanced Certificate
  • フランス語検定準2級
  • ソムリエ資格対策[実戦]講座,SAKE DIPLOMA講座,ステップアップ講座,WineLover 【中級】レベル2講座
Loading...