2024.09.12 日本ワイン

日本でも指折りの一大ワイン産地、山梨県甲州市勝沼の地 土地の個性が感じられる、自然な味わいのするワイン造り

創業110年を越える家族経営のワイナリー 『くらむぼんワイン』

ワイナリーの歴史や風土、栽培に関してを野沢会長(先代)から

そして、オーナーであり、栽培醸造責任者でもある野沢たかひこ社長から

醸造やワイナリーでの取り組みをワインのテイスティングとともにお話いただきました。

 

ワイナリーの歴史

1913年(大正2年)自家ブドウで葡萄酒を造りを開始。

その後、「田中葡萄酒醸造協同組合」となって近隣の農家の葡萄からワインを醸造。

1962年(昭和37年)には、農家の株を買い取り「有限会社山梨ワイン醸造」が設立。

後に株式会社化を経て、2014年(平成26年)、『株式会社くらむぼんワイン』と社名変更がなされました。

 

社名『くらむぼん』に込められた思い

宮沢賢治の童話『やまなし』で蟹が話す言葉に由来。

人間と自然の共存、科学の限界、他人への思いやりを童話で伝えた宮沢賢治に共感し、

この社名が名づけられたそうです。

 

気候風土に合わせたブドウ栽培

醸造用のブドウの3割を担う自社畑では、土地が本来持っている個性をなるべく残そうと、2007年から基本的に不耕起栽培(畑に肥料を与えず、耕さず、雑草を生やしたまま栽培する自然に即した栽培)を開始。

合成化学農薬を使用せず、有機栽培でも使用できるボルドー液のみで、有機認証を取得できるほど。

自然なぶどう栽培で、天然酵母がぶどうに付着したまま残るように育て、発酵させるため、土地の風味が生きたワインが生まれるそうです。温暖化は、栽培品種にも影響があり、現在、「山梨に合う欧州品種」を模索しているとのこと。

シャルドネやメルローは、山梨より冷涼な長野での栽培の方が適しており、「山梨には、ブルゴーニュ地方やボルドー地方より温暖な気候で栽培されている品種が合う」とのこと。

シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンから「南仏系の品種」へと植え替えを進めており、現在の栽培品種は、甲州ブドウ、マスカット・ベーリーAのほか、ヴィオニエやアルバリーニョ、タナなども植えているとのことです。

ブドウの風味を多く残したワイン造り

『人間が機械的にワインを製造するものではなく、ブドウがワインになるのを職人が手助けしていくものと考え、より自然な味わいのするワイン造りを目指している』

自社畑ブドウを使用するワインは、果皮につく天然酵母による醗酵を行い、過度な風味をつけず、品種の個性や土地の風味が生きた、できる限り人為的なものが介入しないワイン造りを行っているそうです。

また、くらむぼんの目指している『自然な味のするワイン』は、“自然派 = 何もしないワイン造り”とは異なり、ワインに有害な微生物の活動は抑えるべきとの考えから、亜硫酸も適量は使用しているとのこと。

ワインの品質を考えた醸造を大切にされていることがわかりました。

 

オーナー/栽培醸造責任者 野沢たかひこ氏

ワイナリーの4代目である野沢氏は、大学で機械工学を専攻するも中退。フランスに渡り、ホームステイ先で出された郷土料理と地ワインの美味しさ、そして、人々の生活に自然に「ワイン」が根付いていることを体感したことから、実家のワイナリーを継ぐべく、ブルゴーニュの醸造学校で1年半栽培・醸造を学んだのち帰国。

栽培醸造責任者としてぶどう栽培から一貫したワイン造りを行っています。

 

  • 自社ブドウ畑

ワイナリーから徒歩1分の所にある、垣根畑の『七俵地畑』。

シャルドネやヴィオニエが栽培されています。

 

  • ワインセラー

国の登録有形文化財で日本遺産の構成文化財

地下にあるワインセラーは、元はブドウの貯蔵庫として使われていました。

100年前に手で掘られたもので、周囲の川から水を引き込み上屋の地下に溜めて冷却していました。甲州市内でも希少なブドウ貯蔵庫の遺例です。

 

  • 資料室

母屋の一角には、ワイン造りの歴史を紹介するワイン資料室があり、当時の器具やラベルなどから古を知ることができます。

  • 母屋

国の登録有形文化財で日本遺産の構成文化財

築140年になる伝統的な母屋は、牧丘町にあった養蚕農家の家屋を移築したものです。

映画『ウスケボーイズ』では蘇我氏の実家として撮影されました。

 

母屋

国の登録有形文化財で日本遺産の構成文化財牧丘町にあった養蚕農家の家屋を移築させたもので、築140年超の建物

 

 

母屋の座敷

こちらでテイスティングさせていただきました

 

 

地下のセラー

瓶熟成中のワインボトルが!セラーでは、湿度の管理のみで、自然に適温が保たれています。

 

圧搾機

収穫用かご

大正から昭和初期に使用されていた醸造器具の数々

自社畑 垣根仕立て(七俵地畑)

野沢会長の案内で畑を見学

勝沼の気候風土やワイナリーの歴史を説明してくださいました

 

 

オーナー/栽培醸造責任者 野沢たかひこ氏

 

 

 

テイスティング

 

1)くらむぼん甲州 2023

ヴァラエタルワインシリーズ

コンセプトは、食事に合わせるためのワイン

ラベルのイラストは、宮沢賢治の童話『やまなし』に登場する『蟹』

 

2)N甲州 2022

フラッグシップワインシリーズ

ブランド名の『N』はオーナーのファミリーネームの頭文字

天然酵母で醸造、ワイナリーコンセプトの「自然な味わいのワイン」を体現したスペシャルワイン

 

 

3)くらむぼんロゼ 2023

ヴァラエタルワインシリーズ

くらむぼんマスカット・ベーリーAに使用するベーリーAのセニエ果汁(色が僅かについた段階で抜き取る果汁)を用いて天然酵母を使用し、低温醗酵させたロゼ

ラベルのイラストは、宮沢賢治の童話『やまなし』に登場する『 樺の花』

 

4)くらむぼんマスカット・ベーリーA 2022

ヴァラエタルワインシリーズ

発酵前に2割ほどセニエ(果汁引き抜き)し、ゆっくりと4週間ほど醸し醗酵後、フレンチオーク樽で7ヶ月熟成

 

5)くらむぼんカベルネ・ソーヴィニヨン 2022

自社畑(七俵地畑)のブドウを100%使用

ブドウの植え替えにより、カベルネ・ソーヴィニヨンを使用したワインはラストヴィンテージ

ゆっくりと3週間程醗酵させ、フレンチオーク樽熟成を1年余り行った後、無ろ過、非加熱で瓶詰め

南フランスのホームステイ先で、食とワインの絶妙なペアリングを知ったことがワイン造りの原点とお話くださった野沢氏。ご自身の造るワインでも、食のペアリングをイメージしているともお話くださいました。

穏やかな語り口で丁寧にご説明くださる一言一言から、勝沼の地が齎すテロワールやワイン造りに真摯に向き合う情熱に深く感銘をうけた訪問となりました。

栽培品種の段階的な植え替えから、くらむぼんワインのラインナップは今後も変化していく模様。

ますます目が離せません!

1
2
3
4

5

Author

吉住久美

Yoshizumi Kumi

  • 日本ソムリエ協会認定 ワインアドバイザー
  • WSET® Level 3 Advanced Certificate
  • ドイツワインアカデミー トレーナー
  • 塩尻市ブドウ栽培・ブドウ醸造技術士
  • JSA Sake Diploma
  • ロバート・パーカー認定プロフェッショナル ワインテイスター
  • 日本ドイツワイン協会連合会 ドイツワイン上級ケナー
  • ドイツワイン親善大使
  • 日本テキーラ協会認定 テキーラ・マエストロ
Loading...