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2014年 第7回全日本最優秀ソムリエコンクールに挑戦して(2)
4.選ばれしソムリエ達
「田辺さんどうでしたか?」 この質問に対し、私は次のように答えた。
「今やれるべきことは全てやった。もし今の自分よりもできた人がいるようなら仕方ない。」
出場者の上位何名が残るのかも知らされていなかった。
ある情報によると、全国12支部から最低でも1名ずつは、支部代表として、本戦への出場権が与えられるということだった。
ということは、もし各支部1名ずつで、12名がセミファイナルに進出ということになれば、関東支部は、圧倒的な超激戦区ということになる。
一瞬、これはかなり厳しい状況だと思えたが、自分が今回、何のために出場したのかをよく考えてみると、「最後の一人になるため」である。
ということは、たとえこの超激戦区から1名しか選ばれなかったとしても、その1名に選ばれる実力がない時点で、最後に頂点に立つ資格はない。
そう考えると、何人が選ばれようが、トップで通過していなければ意味がないのだ。
「トップで通過できていないなら予選で落ちても悔いはない。」そう思えた。
そして予選通過者の発表日。
正午頃、自宅でいつものようにインポーター各社とのメールでのやり取りや、事務仕事に追われていると、突然、お店からメールが送られてきた。
「田辺さん、次も応援しています。」
スタッフからのこのメールが、何を意味しているのかは、自分でもすぐに理解できた。
今回、予選通過者は、全国から30名。
各支部1名ずつに加えて、おそらく全国の上位から順に残りの通過者が選ばれたものと思われる。
通過したメンバーを見ると、過去のコンクールで優秀な結果を残してきた強者の顔ぶれもずらりと並んでいた。
そして今大会はさらに、過去日本代表に選ばれ、世界コンクールを経験している石田博さん、佐藤陽一さんのお二人が、再び世界の舞台を目指し、満を持してセミファイナルから出場されるという噂を聞いた。
もはや、全くの猶予はない。これからまた10月に向けての約3ヵ月間、いよいよ自分との本当の勝負が始まった。
5.本戦へ向けて
予選を終えてから、本戦出場者の発表までの数日間。
当然ながら、この長い時間をただ何もせずに過ごしていたわけではなかったが、やはりどうなるのかわからない状況下では、本気で次の準備に乗り出すには、何かまだ心にひっかかるところがあった。
しかし、今まさに次のステージの切符を手に入れた瞬間、そのエンジンはまた、トップギアへとシフトした。
本戦までの期間に準備すべき事柄を、考えられる限り全てピックアップして、それをベースにした勉強計画は、予選を終えてからすぐに作り上げていた。
過去のコンクールに出された課題で、近年のものを調べ、それに対抗するための対策事項を考えた。
フランス語での筆記試験とテイスティングコメント。
スピリッツ系のブラインドテイスティング。
ワインリストの間違い探し。
棚卸表の分析。
課題メニューのコース料理1皿ずつへのワインの提案。
実食をして、その料理に合うワインの提案。
サービス実技として、過去に出された課題は、マグナムやジェロボアムのサービス(ボトルの温度が高かったり、あらかじめ振ってある場合もある。)
プアリング(複数のグラスにワインを均等に注ぎ分ける技術。)
オリジナルカクテルの提案。
食後酒、シガー、コーヒーの提案。
日本酒を海外のゲストへ説明。
醤油の造り方の説明。
突然の持ち込みワインへの対応、、、。
まだまだ挙げればきりがないが、これらすべてに対応できる準備をしなければならない。
そして当然、まだこれまでに出題されたことのないような新たなる課題が登場する可能性は、間違いなくある。
さらにこれらの課題は、全て選択言語(私の場合はフランス語)で行わなければならない。
これらに立ちむかう秘訣としては、やはり現場でのサービス経験がまず大事だと考えている。
日々のあらゆる場面で、常にプロフェッショナルな対応を心がけること。
そして「一挙手一投足が見られているのだ」という強い意識を持ってサービスにあたること。
これをまずは、今まで以上に心がけなければならない。
筆記試験の対策は、さらに熾烈を極める。
予選でさえもあの難問。
はたして本戦はいったいどこまでの知識が求められるのか。
世界大会では、ブドウ品種のクローンに関する問題までが出題されたと聞いたこともある。
もちろん全てフランス語での出題、解答が求められることは間違いないだろう。
「もうこれで死んでもいいというくらい勉強すること。」
この言葉は、ある有名な方が、世界に挑戦する後輩に向けて発した一言だと聞くが、この時、私の心に浮かんだのは、まさにこの言葉だった。
6.ソムリエとして、講師として
閑散期という言葉は、L‘ASにとっては不要だった。
8月であっても、レストランは、毎日1. 5~2回転の満席と、常にたいへんな賑わいを見せている。
兼子シェフがクリエイトするおまかせ1本のコース料理は、新たな味覚の発見や驚きを与え、多くのゲストを魅了し続けている。
その一皿一皿に合わせて、ベストのワインを提案するワインコース「ワインデギュスタシオン」も、たくさんのゲストに支持され、料理に合わせてワインを楽しむゲストは、ますます増えるばかりだ。
ソムリエという立場から考えると、これほど幸せなことはないだろう。
そして予約は、さらに増え続け、スタッフ全員、現場にいる時間帯は全て、息をもつけない忙しさが毎日毎日続いていた。
そのような状況の中でも、予選準備の時から続けている日々の勉強は、もちろん欠かすことはない。
むしろ、さらに自分に負荷をかけるようにしていた。
ワインスクールもソムリエ一次試験を間近に控え、いよいよ佳境を迎え、授業にもさらに熱が入る。
お店が休みの日は、恵比寿のワインスクールで、一日5〜6時間の授業。
毎回の授業の準備に加えて、膨大な数のテストの採点や日々の受講生へのメッセージ、一次試験に出題されそうな箇所を問題にして、可能なかぎりの有益な情報をフェイスブックのクラスのグループにも投稿した。
こちらも日々全力投球だ。
自分のいる学校に通ってくれている受講生に、最高の結果を出してもらうためには一切の妥協をする気はない。
ソムリエとしても、講師としても本当に充実した日々。
好きなこと、得意とすることを仕事にできる喜びを感じた。
しかし、そんな毎日を過ごしながらも、深夜自宅に戻ると、コンクールファイナルを意識した過酷なトレーニングは続いていた。
(続く)